手挽き石臼診断法

目とりじいさん
昔は「目とりじいさん」が巡回してきて、臼を直しました。江戸時代のことです。これは石屋ではなくて、石臼の専門職でした。ところが賃仕事が多くなって、こういう人たちはだんだん少なくなり、明治、大正と時代が進むにつれて、目とりじいさんは少なくなる一方。それに機械製粉に押されて、石臼は時代おくれのものと見られるようになり、昭和に入ると、次第に片隅に追われる運命をたどりました。
 昭和20年前後の食糧難時代に石臼が一時復活しましたが、当時は専門職の「目とり」はほとんどいなかったので、無理して使って臼を台なしにしてしまったり、素人が目たてして駄目にしたりすることも多かったようてす。現在では、すぐ粉がひける状態にある石臼は大変少なくなりました。そして本格的な「目とり」ができる人も、全国に数えるほどしかいないようてす。これは熟練を要する仕事ですから、石屋へさんに頼んでも、おいそれとはできません。下手に頼むと形だけの石臼目とりをやられます。しかし昔は器用な人なら自分で目たてしたものてすから、少し研究心があれば、自宅で製粉するくらいのことはできないわけてはありません。それに最近は目たて道具の金物がよくなって、タングステン合金のが手に入りますから、鍛治屋さんなしでもできます。もし、お宅にある石臼の目がひどく荒れていなければ、道具なしでもさしあたり粉が挽けるかもしれませんから、とにかくとり出して診断して見ることです。

石臼診断法
 診断法を順を追って述べます。
1. まず上臼と下臼がそろっているかどうか調べます。重ね合わせてみるとわかります。重ねて上臼をゆっくり両手でまわしてみて、ひどくガタつかなければ一応合格です。
2. 心棒はついていますか。堅い木(梅、樫など)を削って木心をつくるのが手取り早いでしょう。少しへりますが、金気が入るのを嫌うなら木でもかなりもつものです。心金に鉄のポルトを代用するのはあまり感心しません。上臼の重みてめりこんてしまいます。
3. 心棒を下臼にとりつけるとき、少しゆるめにつくって、まわりに木片を打ちこんて固定します。ポンドなどは有害ですから、使わないようにしましょう。
4. 心受金具はついていますか。錆びていたら十分掃除します。これもなければなにか代用品を見つけてください。
5. 竹のタガがついた石臼がある地方では、たがをとりかえる必要がありますが、これは針金て代用してもよいでしょう。十分頑丈に作って下さい。
6. これで石臼の部品は全部そろいました。組み立てて上臼をまわしてみましょう。穀粒を入れずに、空まわししてみます。しばらくまわしてから、上臼を外して下臼面を調べます。石の粉があちこちについているのがわかります。周辺部にだけ均等についておれば0Kです。ひどくムラがあったら、目たてをする必要があります。
7. いよいよ粉をひく段になりますが、粉受け台が必要です。新聞紙を敷いて、その上に石臼をおいてもよいのですが、すぺってまわしにくいものてす。ビニールシートではなおさらです。角材を十字に組んでこの上に臼をおくのが一つの工夫です。これなら、浸した大豆を挽いて、豆乳や豆腐をつくるのにも便利です。
8. 初めて粉を挽くときは、下臼の上に米粒などを少量蒔いてから、上臼を重ねます。そしてゆっくり回してみます。絶対に空臼(穀粒を入れずに挽くこと)を挽かないようにしましょう。空臼を挽くと、せっかく目たてした臼面をいためてしまいます。
9. 上からみて反時計方向に、一分間20-40回転ぐらいでまわします。穀粒は入れすぎると臼が浮き、荒い粉になります。

目とりの方法
 診断の6.で石の粉のつき方にムラがあり、臼が少しガタつくときは、目の調整が必要です。これには道具(たたき)が必要です。この道具で石の粉がとくにつよく付着している部分をたたきます。使い方は近所の石屋さんで聞くとわかります。たたいたところは低くなりますから、もう一度目たてを繰り返し、ムラやガタつきがなくなるまで調整します。「目とり」とか「目立て」というと、目の溝を彫ることだと思っている人が多いのようですが、そうではなく、目の山のところをたたいて、新しい石の破面をつくることです。英語ではドレッシングといいます。上臼も下臼も、山の部分がすり減ってツルツルになっていたら、このドレッシングを全面にわたって行ないます。しかしこれは素人がすぐというわけにはゆかないのて、できればよく知っている人に講習を受けるのがよいてしょう。米の粉が細かく挽けるようになれば上上です。しかしそば、豆腐やきなこ粉でしたら、目とりにそれほど気をつかわなくても何とか挽けますから、やさしいものからすぐはしめることです。
石臼は買えるか
 最近、石臼がほしいという方が多くなりました。しかし石臼の値段をきくと驚く人が大部分です。上下の臼一組の石材だけで、10万円はかかるからです。冷蔵庫や洗濯機のように大量生産できませんし、目とりはどうしても手仕事ですから、高くつくのです。お宅で漬物石になっている臼も、新しくつくるとすれぱ高いのてすから、大切にしましょう。昔でも石臼を買うことはやはり大事業だったのです。その代わり、耐用年数は100年も2○○年もありますから、その点では現代の工業製品とは比べものになりません。
 現代人は石臼を挽くような肉体労働はあまり好まなくなりました。重い石臼はたしかにたいへんです。電動式にすると約400ワットの動力で回せます。では、ジューサーや電動コーヒーミルのように、卓上で簡単につかえる手軽なものはないかいう問い合わせもありますが、簡単にしようとすると高速粉砕になってしまいます。石臼のようにゆっくり回転するモーターがないのです。減速装置がどうしても嵩ばります。石臼式と称する安物の卓上高速粉砕機が電機メーカーなどてつくられていますが、石臼とはおよそちがう粉砕機構ですからご注意ください。本格的な電動石臼粉砕機は安くても20万〜30万円というのが現在の相場です。
 最近、ちょっとした石臼ブームにのって悪徳商売する人物が度々あらわれます。何とか手もちの古い臼を再生して、手挽きでゆこうと思う方が多いことと思います。ほんものの手づくりの楽しみが味わえるし、おいしくて健康にもよい。とくに、農家ではうちでとれた小麦、大豆、米、そばなどを自家製粉して食べることができます。これはもしかしたら現代最高のぜいたくだし、お客様には最高のもてなしになることでしょう。


 私もだまされました。NHKラジオや生協、週刊誌などをだしにする日本石臼普及協会などその最たるものです。中国科学院を語って中国から使えそうもない石臼を安値でたくさん輸入し、中国科学院を語って学校などに売りつけたようです。その普及用パンフには私の写真がでかでかと出ていて、仲間にされているのにはあきれました(目下抗議中)。中国科学院からにせものだから注意するよう勧告もきています。 

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