リンク:第一信1983年角海浜についての私の見解2004年、遂に東北電力が断念


巻町長殿

第一信に続く東北電力への提言  

 角海浜 の鳴き砂に関する提言

 前略 公務ご多用のところ突然のお便りにて失礼いたしますが、新潟県の将来にかかわる重要事項と考えますので、無礼を省みずご説明申し上げたく存じます。昨年以来この件につきまして、新聞、テレビなどで幾度か報道されましたので既にお聞きおよびと存じますが、内容が従来の視点にない新規な事実でありますために、ご理解いただくにはなお言葉不足の点が多いと思います。

 そこで今日までの経緯を示す書類を添付し、ご判断の資料にしたいと考えます。

 新潟県西蒲原郡巻町角海浜は現在東北電力(株)が原子力発電所を計画中の地域に含まれています。ところが、ここの浜辺が全国的にも非常に珍しい鳴き砂という特殊な砂が集積したものであることが、私の研究の一環として明らかになりましたのは、昨年のことでした。申し遅れましたが、私は十数年来全国および世界のこの種鳴き砂について研究し、昨年その結果をまとめ拙著『鳴き砂幻想』としてダイヤモンド社から出版しました。

 角海浜が鳴き砂の集積地という事実は学術的にも貴重ですので、さっそく御社にお知らせしました。ところが御社は某民間の地質調査機関に鳴き砂の鑑定を依頼し、「角海浜は自然の状態では鳴き砂ではない」という報告を受けました。その経緯は添付した書簡に示してありますが、角海浜は農業廃水などが樋曾隧道などから入りこみ、汚染が著しく、浜に存在する状態では鳴き砂ではないことは当然であり、私はその事実の上に立って研究を進め、人工的に汚染を除去した状態、つまり本来の自然条件に戻して、鳴き砂と判定したものであります。鳴き砂といっても品位はさまざまですが、角海の砂はわが国でも最高級に属する高品位の鳴き砂でした。

 原子力発電所を建設することの是非は別問題として、建設に際し失われる土地についての精密な科学的調査は正確に行なわなければなりません。そこで私は東北電力に対し鳴き砂についての再調査を提言し、研究にあたって必要な知識や設備の提供も提案いたしました。

 しかしこれに関して同社からは未だに正式の返答はないままになっています。

 角海浜が鳴き砂であることの学術的重要性もさることながら、新潟県下に唯一存在する大自然の遺産を曖昧のまま葬り去ることは余りにも悲しいことです。原発か自然保護かの論議は私たちの世代だけの判断と選択だけではいけないと私は考えます。失われた自然は永久に帰りません。子孫達の未来の世代は果たしてどう判断するか。原発の耐用年数はたかだか30年と言われています。いまから30年後といえば今の親達の次の世代ですが、彼らは曖昧のまま葬り去られた角海の鳴き砂という悲しい物語について必ずや厳しい批判を加えるに違いありません。

 いまでこそ角海の砂は汚れて自然のままでは鳴き砂では鳴き砂ではありませんが、その汚染源を除けば自然の波の力で美しい鳴き音を復活することは私の実験によって立証されています。そしてほとんど永久的に未来のこどもたちに大自然のロマンを語り続けるにちがいありません。

 いま角海は原発か大自然のロマンかの選択の岐路に立っています。行政の発言力をもっておられる貴殿に是非この重大な選択について論議していただきたく、非才を顧みず提言をさせていただく次第です。

 なお必要な資料や調査については何でもお申し込みいただければ、準備いたします。この仕事はこの事実を知る一研究者として当然の任務と考えて降りますので、自然と社会への奉仕の心で行動します。私の微意を汲んでいただければ幸いです。

 1983年4月

              同志社大学工学部教授    三輪茂雄

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