リンク:微生物の食物連鎖世界遺産登録の五箇山でも知られざる土壌汚染が


 水は三寸流れば水神様が清める

    (せせなぎとは)          

この字はあまり馴染みのない字だが「せせなげ」と読む。小さい国語辞書には出ていない。特別大きい辞典Aたとえば『大辞典』(平凡社)をひくと「せせなぎ、またはせせなげは、せせらぎに同じ。みぞ、どぶ」とある。せせらぎは現代語では清流を連想するが、古い時代の書物、たとえば文安三年(1446年)の桑門行誉著『あい嚢抄』には「常に不浄の水なんとの流れやらぬところをせせらぎといふ」とある。また江戸初期の書『甲陽軍艦』には「せせなぎの傍に立ち寄り、小便の用をたし」とあり、江戸時代の『浮世床』にはおちぶれた貴人のなげきを「今の身はAせせなげに流れる米粒を捨チていれど」と記している。下水道が今日のように普及していなかチた頃、民家の裏から畑にそチて、土を掘り割チただけの下水溝があチた。お勝手場からの炊事汚水は、この溝をゆチくり流れ、近くの小川か池にそそいでいた。これをせせなぎとよんだ。「せせなぎ」という語を記憶している人は、最近めチきり少なくなチた。方言ではシシナゲ(宮城),セアナゲ(奈良)ゼーナ(丹後),シシナゲ(新潟)などいろいろで、今のうちに採集しておかなければまもなく日本語から完全に消滅する運命にある。諺に「水三尺流れれば清し」という。もチと古い書物には「水は三寸流れば水神様が清める」ともある。この諺を具体的に見せてくれるのが、このせせなぎだ。汚水流入点から数メ[トル先で溝の幅を広げ、水はよどんで流れる。ここは悪臭ただよう、もチとも不潔な場所だから、植物を繁らせて覆い隠した。夏には無花果(イチジク)、酸漿(ホウズキ)、蕗(フキ)などが繁茂し、柿の木もすくすく育つたのしい子供の遊び場にもなチた。きたないところをうまく利用したすばらしい工夫だ。排水量が一時的に増しても、この湿地帯が緩衝作用をもち、下流へ汚水が流出するのを防いだ。
 せせなぎという言葉が忘れ去られたのは実に象徴的な文化史的事件で、子供たちの博物学研究室だった施設を奪チた。せせなぎに代チて工業的装置でA集中的A効率的に実施しているのが都市下水処理場である。活性汚泥法と呼ばれる方法の原理はせせなぎそのものだ。かつては家ごとにやチていたことを都市単位でやチている。つまり隣の家との関係だチたことが、都市単位に巨大化した。淀川水系はその見本である。しかし、そこに決定的な違いがある。汚泥は焼却されるが、その灰には現代の生活廃棄物から来るもろもろの毒物が入チているから肥料には危険である。大部分は焼却処分し灰は埋め立てられる。それも、こともあろうに山地に棄てるからA長い年月には地下水を汚染し、人間にふりかかる。二十一世紀に向けての現代人の悪しき遺産である。

 

           水神様の正体 は下水菌のことだった

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