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テキスト:三輪茂雄著『粉体工学通論(日刊工業新聞社刊,1998)を使っての講義用


(日本粉体工業技術協会機関誌の粉体と工業誌Vol.26,No.1-Vol.30,No.3で26回にわたり連載したものをさらに訂正)
 いままで隠していた秘密の教授ノートを公開することにした。 本当は発刊時に先生向けに出したいと出版社が言ったのだが、間に合わず仕舞いになっていた。 一般に売り出して学生に出まわっても、どうせ自分でやらねば解けないのだから構わない。 会社で新入教育のとき「これをやれ」とだけいって、 自分で解答したことがなくてもやらせれば必ず解答がでるから、お役に立つかも知れない。

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 化学工学または化学工学演習という科目を、20年あまり毎年学生に講義してきた。 150人位のクラスで一年間40講時だからかなりのレポート分量になる。 そのため、採点は休日の仕事になる。
 いずれも自分で考えた問題や自分で実験したデータが大部分だが、 突然質問されると忘れてしまって慌てることがある。 自分で書いたテキストだから、学生に考えさせるつもりでわざと省略したところや、 わざと途中だけ間違った数字を入れて考えさせるようにしたところなどがあるのを忘れている。 自分でやったのに、それは間違いでは?と気になることもある。 そのような質問は必ず皆くだらない勘違いからくるもので、

「バカモン!、自分で考えろ」
と言えば済むものばかりだ。安心して解答を待てばよい。 多分私の著書を使っていただいている先生がたも、そんな悩みをおもちに違いない。
 授業のはじめに、テキストの要点だけ約15〜20分位説明して、 あとは「ヤレ!」と命ずるだけでよい。授業開始に遅れたらついてゆけないし、 居眠りしている暇もない。
 例題でも 必要な要点はどれかもかいてある。ただし解答は完全にはしてない。 でも必ず学生は自分で考えて電卓なり方眼紙や定規、コンパスなどを使って解いてゆく。  進行状況でいつ頃どんな質問がでるかわかっているから、 頃合いを見て黒板に絵を書いたり中間に見せる数字も書いてある。 最後に到達すべき解答の数字がでると、学生も満足して粉体工学が楽しくなるようだ。

 私の授業に試験はない。試験問題というのは、必要にして十分な条件が設定されて問題を解くものだ。 しかし実社会ではいらない情報がたくさんあって、肝心の情報はない条件で、問題を考えるものだ。 そして肝心の情報は自分で探すものである。すべてのレポートを集約して採点するから、 点数は一点刻みの正確無比。
 単純そうだが平均粒子径の式の誘導となれば、大学院生でも戸惑うことがある。 この応用としての粉体工学の不思議を感じさせる問題の一例は、三塗の川原の砂数えである。 これは鬼の監督下で砂粒を数えているマンガを板書し、 目の前に琴引浜の鳴き砂一キロほどをおく。

「この砂粒は何個あるか?
  またこの砂粒を一列にならべて地球を一周するには何キロいるか?」
をどうやって計算するかと問うて考えさせる。分からないだろう。 それを簡単にやるのが粉体工学の粒子統計学だといって、ふるい分けによる粒度測定、 平均粒子径の計算などのテキストの要点を示して、計算問題をやらせる。
 別に実験の時間には実際に3000個くらいの粒子を直接算定させる。その質量は、 化学天秤で秤かる。絶対に直示天秤は使わせない。 1ミリグラムを目で見たことがない学生では困るからである。

 実験といえば、気温、湿度計、気圧なども自記記録計なしの本物で測定する。アスマンの 湿度計で湿度をはかる時、ファンが故障したことがあった。計れませんという。

「アホ、そこの団扇(うちわ)でやれ」
「なるほどこのほうが楽しいですね」

 最近の学生は私語が多いから、時々大声でどなる必要がある。怒って机を手で叩いて、 骨折した大先生ありと。私の授業はいつも複合材料製の白色の教鞭を使う。 この新素材の音は竹の鞭の比ではない。振動コンベア部品で使い古した破損品の再利用である。 これで最初の講義でバンと机を叩いて一発やっておけば、あとは無言で教鞭を見せるだけでよい。  昨年郷里の成人式に呼ばれて講演したことがあった。 どうせ田舎の野郎どもや娘ッ子だからと持っていった。案の定会場はガヤガヤ。 役場の人が制止しても駄目だった。 バン一発の威力は凄くて感心された。これも私のとっておきのノウハウだ。


三塗(さんず)の河原の砂の数
(意味がわからない学生がいるようだ。 さんずのかわらとは冥土の地獄へ渡る川)

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