ミュージアムに住みついた客人
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蟻地獄とは

アリジゴクの拡大図
 これは京都の蟻地獄。頭部に同志社マーク三つ葉のクローバーがある。ウソ?
だが不思議なことにホント。 「そんなばかな!」と京大の吉田山や、立命館の裏山を探した学生が、 間違いなくその通りと卒業論文に書いたことがある。 そういえば仁摩サンドミュージアムのピラミッドには、 この同志社マークがちりばめてある。 地方性がはっきりしていて、私が確認したものでは静岡県の中島田砂丘のはセカセカと忙しいし、 丹後の琴引浜のは図体がおおきくそして獰猛。 噛み付かれると痛い。島根のカッポサンは小さくてやさしい。 九州のは毛むくじゃらの熊蘇然としていた。

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 縁の下や、崖のかげ、砂浜などに、すりばち状の穴を堀って、 蟻などの獲物が落ちこむのをシッと待っている小動物がいる。 これはウスバカゲロウの幼虫で、英語ではアントライオン ant-lion という。 目が左右に7つずつ、合計14個の単眼をもっているから、きっと、魚眼レンズのような視界をもって、 陣地の縁を監視しているのだろう。 その証拠に、逃げる獲物目がけて砂ツブテを投げかける。 陣地の斜面の角度は、いわゆる安息角、もし、蟻が斜面に足をつっこむなら、安定が崩れて、 地獄の底へ転落する。湿度の変化によって、安息角が変化するから、ときどき修正することも忘れない。
 頭にあるハサミは、よく見るとスリバチの底でグッと広げ、斜面の下端を器用に支えている。 だからこのハサミのセンサーで、斜面に起こる微妙な変化を感知できるのである。 つまり、アングリロをあけて、棚から落ちてくるボタモチを待っているのではなく、 陣地の斜面を完全に制御しているのである。

 さて、彼の陣地構築作業は実に壮観である。飲まず食わず、せっせと働きつづける様は、 パワーショベルのミニ怪獣であり、実に精力的。思わず、「ガンバレ!」と声援したくなる。
彼はまず大きな輪を描きながら後ずさりしてゆく。その輪の直径は次第に小さくなり、 最後に中心にもぐりこんで完成である。

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 粒ぞろいの砂がある場所ならともかく、一見、とても陣地がつくれそうもなさそうな荒れ地でも、 整地作業する。私はどうして、粒ぞろいにするのかに興味をもった。
 頭のハサミは確かにふるいの役割をする。大きな粒子だけはね飛ばすのだ。 ところが最近、アメリカのある動物学の雑誌に、アリジゴクの陣地構築に関する論文が出た。
(An1m.Behav.30巻、P.651.1982)題して 「アントライオン幼虫の陣地構築に関するバイオフィジッフス」
京都教育大学の松原俊明先生から教わった。 それによると、粒子が空気中を飛ぶときの空気抵抗が問題だという。 大きい粒子と小さい粒子の混合物をはね飛ばせば、大きい粒子の方が遠くへ飛び、 小さい粒子は近くにおちることならおおよその見当がつくが、 この論文では粒子軌跡の実に詳しい理論的解析を行っているのである。
 たかがアリジゴクに大げさなと思うが、よく読んで見ると、 実は分級技術者顔まけの粒子分級理論が展開されている。そこで私も試算してみたところ、 たとえば1mmの粒子とO.5mmの粒子をはねあげたとき、もし初速度が小さくて、 層流条件だったとしたら、分離は起こらないことがわかった。 ニュートン域と層流域の中間域が丁度よいのである。
 どうしてアリジゴクが、そんなことを知っているのだろうか?。 これが大自然の摂理なのかも知れない。
風力分級の極意をアリジゴクに学ぶ など考えてもみなかったことだ。 これもバイオの時代なのだろうか。


Medical Pharmacy,Vol.20,May,114-115(1986)に掲載した三輪茂雄のエッセーより

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