なぜ今石臼博士の出番か
経緯:1975年10月6-10日、CPショー(東京・晴海見本市会場)に臼まつりの看板で石臼が登場したことがあった。これは石臼博士の提案で自ら出演。翌年に第1回粉体工業展が開催されそこでも同じ展示を行った。「過去のものと考えられがちな臼に未来の夢を見出そうとする計画」としていずれも日本能率協会、日本食品工業会、日本粉体工業会の協賛で開催された。 その頃著書『石臼の謎』が出版された。この問題提起から四半世紀を経た今、突然石臼ブーム。石臼をめぐって黒船を迎えた江戸時代末に似た騒ぎの渦中にある。インターネットで石臼のキーワードで検索すれば500件を越える情報があるが、非常に偏った情報源だ。九州の某社にヨーロッパから直径1.7mの巨大石臼が数台導入され、時間500キロの処理能力というが、その情報は出てこない。日本伝統の石臼製粉にとっては黒船だ。石臼の現代化がわが国でも急速に進行する気配がある。
商人たちの暗躍もすごい。有名デパートが中国から直輸入の石臼を安い値段で宅配便にのせ、通信販売の案内が来る。だまされて買って使い物にならないという苦情も耳にする。手元に購入した中国製の石臼が、持ち込まれて私が修理する風景も。これではたまらんと石臼博士。いまこそ腰をすえて黒船に対応し、日本の食文化の伝統を正しく評価する必要がある。
石臼は西洋ではローマ、東洋では漢代に同時に出現し、それぞれ独自の発達を遂げ、それぞれの食文化を築いてきた。ここ50年のあいだに大量生産、効率化を基軸とする技術革新の波が、人類本来の好みをも押し流してきた。今その反省にたって、もう一度食材加工の原点としての石臼に注目が集まっている。
日本の石臼は青い目の西洋石臼で簡単にとって代わる代物ではない。抹茶挽きがその典型であり、日本の味蕎麦をはじめ水挽きの豆腐もある。数年前にアメリカで”The Book of Tofu”がベストセラーになって石臼豆腐が注目されたり、昨年には東京・新宿に1000円豆腐が出現して話題を呼んだのもその現われであった。日本人の食感は西洋とも中国とも違う。いままさに、西洋の石臼は東洋の石臼を越10えるかどうかが問われている。この歴史的な転換期に日本、中国、ヨーロッパの石臼を一堂に集めた展示とシンポジウムは意義あることと考えられる。