リンク:胡麻挽き用ミニ石臼発表


胡麻と荏胡麻の味

荏胡麻(えごま)の味
 ごま(胡麻)は昔から「万能食餌」と呼ばれ、延命長寿、強壮補精、便秘解消など、さまざまの効能が知られてきた。また調理に胡麻をうまく使えば、どんな味でも出せるので、どんな食べものでもうまくなる。筆者の曽祖母にあたる人は、旦那が生まれつき、魚類が嫌いだったので、煮干や鰹(かつお)のダシを使えず、すべて胡麻味だったという。それがまたとてもおいしかったと母が語ってくれた。
 どんな味だったのか、私は知るべくもないが、同志社大学の近く、鞍馬口通り寺町西入ルの閑臥庵で、尼さんが万福寺の精進料理をはじめて話題になっていた。それがまさに胡麻昧の極致だった。鰻の蒲焼だの、蒲鉾など、アレ?これが精進料理?と思うが、材料には全く生嗅いものはつかっていない。それでいて本物そっくりだ。食べてしまってから、「ほんとに本物とちがうの」といいたくなるほどだった。「誤魔化し」は「胡麻化し」に通ずるというが、わるい意味ではなく、よい意味でここまで誤魔化されるのは、すばらしいことだ。閑臥庵はそのうえ美人の尼さんとあって、大繁昌だった。男子禁制ではないが、女性客か多い。一週間ほど前から予約する必要があった。材料の調達と煮込みに日数がかかるためであった。
 ところがあるとき行ったら、すっかり味が変わっていた。後味がわるく、とにかく「くどい味」だった。多分古くなった(酸化した)胡麻だった。たまたま悪い日に行ったのかも知れないが、それに懲りて行かなくなった。後日談は知らない。
 ところで胡麻は、エジプト時代から西洋で重要視され、シルクロードを経て東洋に伝わったという。わが国では延長年間(923-930)の記録から見て、少なくとも千年の歴史がある。かたい皮に覆われているので、よくつぶして食べなければ消化しない。そこで、お浸しなどには切リ胡麻といって、包丁でたたいて、よい香りを生かす。炒った生ごまをフライパンに人れて、とろ火にかざし、二、三粒とびはねたらOK。これを擂鉢(すりばち)で擂る。擂鉢だと、だいじな油分が溝に入りこみ、もったいないというので、布に包んで金槌で叩く人もいる。筆者は、化学実験や絵書きさんが絵具ときにつかう磁製乳鉢(直径10センチぐらいのもの)を利用する。安くて、軽くて、洗いやすくて、衛生的で、使いやすくて、効果的だ。スーパーに行くと、「炒り胡麻」や「擂り胡麻」が売られている。商魂たくましい連中が、物臭な主婦向けに売り出したものだが、さいきんはこれが大へんな売れ行きだというから不思議である。生ごまは収獲したままなので、泥などが付着している。工場ではこれを洗い、砂など除去したのが「洗いごま」である。ここまでは良いとして洗い胡麻を買って来て、炒って擂るのに、それほど時間も手間もかかるわけではないが、そこが現代人の物臭の物臭たるゆえんであろうか。洗い胡麻よりも、炒り胡麻の方が商品として見かけがいい。第一、膨張していて、かさが高く、同じ100g入りでも値打ちに見える。これも胡麻化される一因であろうか。
 洗い胡麻の状態だと、生命を宿した種子だから、保存性もよいが、炒ったのは種子の焼死体である。風味はとうの昔に失われている。さらに擂り胡麻となると、状況はもっとわるくなる。酸化され易い油は、かたい種皮に覆われていてこそ、保存されている。つぶしてしまうと、種皮の表面に広がるので、みるみるうちに酸化が進行する。私は参考のため、いくつかのメーカーの「擂り胡麻」を買って来て、調べてみた。擂り方の程度はまちまちで、粗目につぶし、皮がむけ、実が二っに割れた程度のものから、非常に細かく擂ったものまである。小麦製粉と同じロールミルで粉砕したのが粗目、擂鉢に似た器械でつぶしたのもが細かいようだ。しかし、いずれも、サラッとしている。擂り鉢で丁寧につぶすと、胡麻の油が皮にのって、しっとりした状態になるが、こうなると、包装しにくくなるので、余りつぶさないらしい。これでは胡麻の本当の味は出るわけけがない。包装紙にも二種類ある。ひとつは中味が透けて見えるもの。もうひとつは、アルミ包装で中味が見えないもの。中味が見えた方が消費者には魅力的だが、胡麻は光にあたると酸化変質が急激にすすむ。だから、よく擂ったものは、光を遮り、さらに脱酸素処理がしてある。こうしても、長もちはしないので、買うときは製造年月日をよく確めることである。せいぜい一ヶ月位と見てよかろう。もうひとつ「練リ胡麻」がある。これは十分強い圧力をかけて擂ったもので、胡麻油のなかに、擂りごまが浮いたような状態になっている。自然食品売場で「絹ごし胡麻」などの商品名で売られている。こうなると、酸化変質はさらに激しいから、できるだけ製造したてのを買う必要がある。少し古くなると、食べたあとの胸やけが気になる。自然食どころではなく、有害食品にもなりかねないから要注意である。白胡麻は主として関西、黒胡麻は関東というように、何故か関西人と関東人は好みが違う。昔からの生産がそうなっていたからだ。

 現在では国産の胡麻は生産がゼロに近い。黒ごまは中国、インドネシア、タイなどから、白ごまはアフリカのタンザニアあたりからの輸入に頼っている。いずれも粗放農業だから、生胡麻には土砂や、バッタ、鼠の糞などが混入している。これを精選して売出される。洗いごまを買って、炒って電動ごますり機で擂っている方もあるが、これはどうであろうか。私が実験してみたのは某社の「うす式」というのだった。これならあなたの得意な「石臼式」ですからとメーカーが持ってきた。たしかに石臼の目に似た円盤が高速回転している。ところが、不思議なことに、臼の目が油でつまらずにサラサラと流れる。この秘密は胡麻の皮を剥いたただけで、実の部分は粗砕程度に止めているところにある。生半可な擂りである。「電動胡麻化し胡麻擂機」にすぎなかった。
 では本物の石臼で胡麻を擂ったらどうなるか。当然、目が油でつまって、どうしようもない。そこで私はひと工夫して、石臼の石材を非常に微密なものにし、目たて方法もかえて、いろいろ実験をしてみたところ、ある日成功した。直径十センチぐらいのミニ石臼であった。私はこれで、うまい胡麻の味をたのしんていた。ところが、日本の胡麻のシェアー一位という大手の擂り胡麻の会社の社長がこれを見つけて、これを是非工業化したいという。そこで中間段階として直径三六cmの機械を試作した。高精度の加工のために、かなり苦労を重ねて、とにかく成功にこぎっけた。ところが、調整方法が不充分だったために、原料の洗い胡麻を入れると、擂り胡麻ではなくて、練り胡麻が、まるで蜂蜜のように出てきた。練り胡麻というものを知ってはいたが、自分でつくったことのない私は、驚いた。練り胡麻は、胡麻油に胡麻粒をまぜたものだろう位にしか考えていなかったのだが、目の前で炒り胡麻が練りごまになったからである。あとで知ったことだが、胡麻は五○パーセント位が油であるから、当然のことだった。失敗が生んだ練り胡麻は実においしいので、さっそくパンをもってきて、これで石臼を掃除しながら食べた。ずいぶんたくさん食べたので、あとで胸やけするのではと心配したが、その気配は全くなかった。自然食品売場で買う酸化の進んだのと、新鮮な味との相違である。胡麻擂り用石臼〔電動式)が完成すれば、擂りたての胡麻を売り出'すことができる。包装などをしないで、その場で必要なだけ店頭で版売すればよい。これはどこかの店頭に出現する筈だが出ていない。 

荏胡麻の話 (NHKで04.1.11.朝の番組で紹介されていた)

 岐阜県の高山を訪ねたときのこと、朝市で「荏胡麻(えごま)」の種子をを見つけた。食べてみると、白ごまや黒ごまとはちがったコクのある味で、香りも高いので、栽培してみることにした。翌年、どんなのが生えるかと楽しみにしていたところ、青紫蘇によく似た植物になった。夏もすぎる頃には背丈ほどに成長した。ところが秋になっても、いっこうに花が咲く気配がない。「徒長したせいなのだろうか」。花の気配がするので楽しみにしていると、葉が出てきて、枝に枝がのびるばかり。母が「そろそろ大根を蒔く季節になったので、邪魔になる。もう引いてしまおうか」という。もうちょっと待ってと頼んだ。この芽は、こんどこそ花かもしれないない」自信はなかったが、更に一週間待った頃、一斉に花がついた。待った甲斐があった。図のような実がついて、コクのある味で、香りも高い味を楽しむことが出来た。
 その味を求めてホームページで荏胡麻を検索したら荏胡麻サミットというのがあった。福島県郡山市の北東船引町に日本エゴマの会なるものがあり、荏胡麻の全国的普及を目指していて、ここでは種子も分けてくれるいるという。うれしい話だ、(日本エゴマの会 田村郡船引町大字中山字田代380―4 TEL&FAX0247(86)2319)。

(http://newvoice.lucky-bits.com/talk/back/2001-11-22/11-22.html)

なおHPで検索すると荏胡麻を売りますという無数のサイトが出てくるが、ほとんどが売らんかなの連中らしい。上記は本気で荏胡麻を全国に普及しているところだと思う。

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