三輪の講演
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2000年1月26-29日 鳥取近傍での講演内容(プリントアウトはA4全7ページ):

鳥取砂丘が鳴き砂だった動かぬ証拠を中学生が発見

同志社大学名誉教授 三輪 茂雄 

-- 蛙砂 (左絵参照) の実物を回覧し、
10000年10cmの年表を配付しておく--

注)文中(秘密の?)とあるのは質問が出たら話す予定の部分で、末尾に付録されています。

 仁摩サンドミュージアムの巨大砂時計設計のデータを得るために私が作った、 最高傑作の 1時間計 を反転して机上に置きます。 これは制作以来10年後の現在も間違いなく動いています。 砂は0.1mmの細かさで、0.1mmは後で話す粒と粉の境目にあたります。 これなら現在の 1年計の1/2の大きさが可能です。 しかし実際には安全のため、余裕を持たせました。(※秘密の6)

 粉の先生と紹介されるから、それを受けて粉粒の文字を板書する。 粒の字は米が立つ、粉は米を分けると書く。

粉粒体工学 です。

 私はもともと、会社でものを作る化学工学の技術者でした。 だから頭で考える前に手を動かします。化学工学のバイブルに、

You must have many hands for shake hand with various mens.
とあったのを、日本流では 千手観音 だと思いました。 握手(shake hand)して手に噛みつかれても余裕があるから、 頭で考える前に何でも手を出します。

 みなさん と聞いてまず何を思い出しますか?
日本人なら明治時代にはじめてが見て驚いた メリケン粉 。
西洋人は 火薬( gun powder を思い出す)。これは西洋との文明の差。

-- ここでやおら 火打ち石と火打ち金(カッターの古刃)を取り出して --

皆さん、火を起こせますか? ライターは猿でもマネしますよ。 この石は火打ち石(フリント)ですが、これはシリカで人類とは石器時代から現代まで人類と縁の深い物です。 石器時代には鏃(やじり)になり、ヒゲも剃れる鋭い刃物ができました。 現代ではガラスをはじめ、コンピュータになくてはならないシリコンウエハーの原料です。
アルプスで発見された5000年前のミイラが持っていた道具に、 火打ち金の代わりになる鉄鉱石とキノコの粉(火口)があり、 彼は火打ちを持つ貴人であるとされています。
その後、鉄器時代になると火打ち金が出ます。古墳から出土するほど貴人の重要な持ち物でした。 その証拠でしょうか、現在でも皇室では毎日の儀式に火打ちが使われています。 神宮はもっと高貴なので、それより古い火鑽りが使われるのだそうです。
(火口の作りかたは ※秘密の2
 

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-- 三輪著「たくさんのふしぎ」幼稚園用と小学5年国語(光村書店) 本を見せる --
粉を作った道具の石臼:サドルカーンからロタリーカーンへの発展 を見落とした文部省の古代史は空洞です。カーンとは手挽き石臼のこと。
 最近神戸で開催された古代ジプト展にも出ていませんでした。 カーンはエジプト文明を支えた石臼です。これで小麦を粉にする発明、 粉の発明これこそ人類史上最大の発明でした。 ここで粉に出会わなかったら人類は食糧危機で滅亡していたに違いありません。
 これを2000年頭、1月2日にBS2で放映予定でしたが、 年末の29日になって突然中止と連絡がありました。 問題をスケールダウンして、2000年間になったようで、 その放送を見て、あの3流のタレントではわかりっこない。 バカどもと付き合わなくてよかったと思いました。

 ところで今日は、2000年以前の話をしなければなりません。 鳥取砂丘が鳴いたのは多分2000年以前のことです。でも2000年前って分かりますか? 最近ミレニアム millennium というのをテレビなどで聞くでしょう。千年のことです。 でも千年って分かりますか、どれくらい長いか。最近亡くなったキンサンも100年は分かるが、 1000年は分からなかった。人間が体験できない からです。

 時間は見えないですね。時計はその瞬間しか示さない。 地球46億年の説明に現在一般に使われるのは、昔ある天文学者が言ったという次の文です。

「46億年の地球の歴史に私たち人類が出現するのは、ほ んの最近のできごとです。地球誕生から現在までを1年間として考えると、 人類の登場は12月31日の午後11時59分ごろのことになります。」
これでは、実感できない時間を時間に置き換えただけ です。 私はマヤカシの説明だと思いました。

 マンガ家の手塚治虫氏はこう書いています。

想像もつかない、とてつもない長い時間をかけてこの地球はできたのだ。」
手塚先生でも、46億年と いう時間を想像するのは難しかったんです。 でもそれは頭の中で 考えるから、手に負えなくなる。手をつかって形にして 示せば、もっと分かり易くなります。

 とにかく何か体験しようと私は先週、法隆寺へ行って見ました。 1000何百年前の建物の柱に、樹齢1000年の檜の柱がありました。 でも柱に聞いても返事してくれませんでした。

 人間が実感できるものの大きさは長さと体積または重量しかありません。 科学のあらゆる測定器具か器械はすべて、長さ体積重量 に基づいています。電流計だって目盛という 長さ です。

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砂時計

 砂時計は 体積または重さで過ぎた時間と、残った時間を同時に示します
島根県の仁摩町が作った世界一巨大砂時計は1年を表現しています。
そして脇に展示してあるパネルは、地球46億年を富士山と比較しています。

あの1年計と同じ砂で同じプロポーションで砂時計を作ったらこんな感じ。 (※秘密の4 体積計算)
ついでに46億トンは日本の工業生産力にほぼ匹敵することも統計で示しています。

 もう一つ長さで示す方法があります。


 皆さんのお手元に配った小さな紙切れの出番です。 これは1万年を示す年表ですが、これで人類史300万年の自由研究の宿題ができます。 ラベル用紙に印刷しましたからすぐ使えます。 50円の紙テープを7色買ってくれば合計350円で済み、 テープは残りが出ますから友達にあげてもいいですよ。
 人類300万年年表は簡単に作れます。

-- 完成品を見せる --

全長30メートルで、人類最古の全身の骨がでたことで有名なルーシーさん(女性)に会えます。 これを作ると上の年表の意味がわかり、次は恐竜がいた白亜紀までの恐竜年表を作りたくなります。 何の科目でもOK。科学、歴史、地学、数学どれでも先生は感心なさるはずです。
年表は長さで時間を説明している から分かる!。体育でもいいですね。 マラソンで体験するんです。このスケールで計ると地球年表は46キロになります。 先週広島であった男子駅伝(鹿児島優勝)は48キロでした。おおよそ同じですね。 島根の仁摩町の仁摩サンドミュージアムには全長46キロの地球46億年年表があります。

仁摩サンドミュージアムの世界最大46億年年表
 左写真の 46億年年表 を実際に作ろうとして、 文具店へテープを何千本も注文して取り寄せました。7色あるので虹の年表が作れる。 しかしそれを展示しようとすると、上にガラス板を置きたい。 しかしそんな大きなガラス板は1年前から注文しなければならない。その直径は? 計算式を考えねばなりませんでした。それは 等差級数と二次関数の一般解 を結合して求めました。

 これは数学の入学試験問題によさそうですが、難し過ぎるようです。 ふつう大学生でも時間内には解けません。紙の厚みを与えれば簡単ですが、 それでは面白くない。挑戦してみませんか。私はこれを解いて初めて数学の有り難さを実感しました。 直径だけではなく、紙の厚みも、巻数も同時に出るのです。 この時、昔の高校で暗記させられた式と教えてくれた先生を思い出しました。

 

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鳥取砂丘の東の端にある岩戸海岸に鳴き砂があった

 鳥取砂丘は鳴くという話をする人はいたが、はっきり証拠を示す人がいませんでした。 私は一昨年の砂丘学会で鳥取大学の先生の前で鳥取砂丘は鳴き砂だったかも? と言ってみたら賛成する先生がいました。
 ところが、京都市内に小学校4年生の頃から鳴き砂に興味をもって調べていた子 がいました。 勝山由香 さんです。昨年の春私のところへレポートをもってきました。

 砂の写真をとったり、音の出し方の研究などたくさんやっていました。 鳥取砂丘も鳴き砂だったらしいとを話しました。
 昨年の夏休みに岩戸海岸付近を調べて鳴き砂だということを証明してくれました。 現地では音が出なくても、ある方法で音が出るようになります。 その方法は秘密 です (※秘密の1)

-- ここでガラスポットを取りだし3回だけ発音させる --

(会場は感動が満ちた感じ)

 そのレポートは実物がこの会場に展示されており、インターネットにも出ています。

 もう一つ、その子のレポートがすごいのは 高温石英を拾い上げたこと です。

 高温石英は地球創成のロマンを秘めています。 マグマが冷却するときにしか生成しない結晶です。 チュウブラリンで(無重力で)できたから自由に成長した、その形だけ残している。 (写真を見せる)。その後長石や雲母など融点が低いのが次第に周りに結晶化して、 岩石になりました。
 その後地殻変動、風化、流れ、そして浜辺で切磋琢磨しながら流れ流れて、 最後にここにたどり着きました。ご苦労さん。 それまでに多くの仲間は傷つき、丸められたのに、その間をうまくすり抜けた要領のよい奴、 幸運なヤツ、だから 幸運石英 でお守りにいかが?
 その探し方ですが、黒紙を折って折り目に1列に並べます。 それを片方から顕微鏡で見てゆきます。皆さんは顕微鏡を覗いたことがありますか? 少なくとも1時間はジット眺める。それが粉体工学のやりかたです。 見つかったら爪楊枝の先を鋭くし、ぬらして拾い集める特殊収集容器に入れます。
 有史以前には鳥取砂丘は唸って大地をゆらすことができたかも。(中国とアメ リカのブーミングサンドの山の写真を見せる。)   大自然がやっていることの偉 大さがわかりますね。

海浜での洗浄作用

ビーチ渦の実験装置化
 ビーチでは波が絶えず砂を洗っています。その肝心の部分はビーチ渦です。 このビーチ渦を再現して汚れた砂を洗うには、 直径22センチメートルの10リットルのポリエチレン容器を毎分60回の速さでモーターで回転させます。 ただし気が遠くなるくらい長い時間がかかります。

飯豊町では水車で実現

500万年前遅谷は海岸だった
 途中で水が濁るから、ときどき水をかえる。 正味1000時間(約40日)。1回転で壁のそばの砂は22×3.14センチメートル動きます。
こうして延べ約100時間動かすと、おおよそ濁りの色が薄くなりはじめます。 顕微鏡で砂を見ても汚れは見えない。 しかしまだまだ砂は鳴きません。
約500時間で濁りの状態が変わってくる。 泥水ではなく、白い濁りになる。このとき砂を取り出して乾燥させれば、普通の鳴き砂 にな ります。
 もっと続けて延べ1000時間動かすと、水の中で鳴く蛙砂になります。 なまやさしいことではないが、できないことではない。電気代も大変です。
山形県飯豊町では、小学5-6年の子供たちが協力して水車を利用した洗浄装置を1999年8月に完成しました。
それを市販して村おこしに役立てています。

 [計算問題]
 1時間で 60×22×3.14×60÷100=2486.88メートルの旅をさせたことになる。
1000時間で2486.88kmメートル(日本で一番長い信濃川367kmの6.78倍)だ。
このような砂の運動距離を distance of travel (旅行距離)という。
それよりも長い距離の砂の旅だ。大自然がやっていることの偉大さがわかる。 (電卓で計算してみよう。) 鳥取砂丘一般の砂の汚れは千年以上を経過していて無理か?

 鳥取砂丘一般の砂の汚れは千年以上を経過していて無理かも知れません。 それとも挑戦しますか?不可能ではないはずです。  鳴き砂を大切にする活動(守る会)があるのは日本だけです。(秘密の3 鳴き砂か鳴り砂か)

 ここでたばこの吸い殻1個を50グラムの鳴き砂に落としてから鳴かせると、 20回ぐらいで鳴かなくなる。その前後の砂の表面の電子顕微鏡写真です。 灰でもこうですから、ぬれて汁がでたら手に負えません。

 ナショナルトラストは全国鳴き砂ネットワークを組織し、 毎年1回全国集会を鳴き砂がある地区の自治体で回り持ちで開催しています。 私はその顧問です。このような活動は世界でも例がありません。 アメリカやヨーロッパでは鳴き砂の存在が忘れられています。

 私のHPで Singing sand (シンギングサンド) を知ったイタリアの9才の男の子が、メールでバイオリン湾 という浜があるが、 ここの砂は鳴き砂だろうか? と言って来ました。 砂を100グラムほど送ってもらい、こちらで洗ったら立派に鳴きました!
また送りかえしたら大喜びでした。

 

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秘密の1 の答え
沸騰水に100グラム放り込んで約30分ブクブクやる。 こうして音が回復する砂は汚れが少なくて、自然のままでも季節によって発音する可能性がある。 この場合砂は大量ではいけない。1キロも入れるとまったくダメです。ホントニ。

秘密の2 の答え
火口の作り方は上質のもぐさをアルミ箔に包んで蒸し焼きする。 安物ではダメ。実はこれが中世の黒色火薬の発明につながっているのです。もぐさを 使うノウハウは中国の敦煌の骨董屋で入手した遺物で知りました。

秘密の3 の答え
鳴き砂か鳴り砂か:
 昔から鳴き砂のことを 鳴り砂 と呼んだと主張する人がいるが、 わが国には古来の呼び名は存在しませんでした。
 わが国初の鳴き砂研究者である新帯国太郎氏は 『満鉄読書会雑誌』 13巻,5号,106-116(大正15年)に「鳴る砂の話」として発表しました。
坪井誠太郎氏の大正7年に島根の琴ケ浜の砂についての論文では singing sand の和訳で 「歌ひ砂」と書いています。
ある著名な国文学者が万葉集にあると言った話が引用され、 読売新聞の窓欄によみ人知らず(報道では額田王の歌とあった) として万葉集にも鳴き砂の記載があると報じられたことがあります。
 これについて駒沢大学院生の伊藤達氏(たつし) が図書館にコモッテ調査しました。
原文は
「紫之 名高浦之 愛子地 袖耳触而 不寝香将成」
で万葉仮名で書かれている。
現代文ナは
「紫の名高の浦の砂地 袖のみ触れて寝ずかなりなむ」
意味は
「名高の浦の砂浜に袖が触れただけで、寝ずじまいになるのだろうか」
はなはだ高尚で意味深です。

悲しいときもうれしいときも万葉の女は泣く
語釈は、砂地 細かい砂のある所。マナゴには愛児、いとしい少女の意の同音語があり、 原文「愛子地」の表記もそれにかけて、旅先で言葉をかけた可憐な少女をたとえたものでしょう。
場所は 名高の浦 (和歌山県海南市名高町の海岸) で、鳴き砂の浜ではないので、 この歌は 鳴き砂のことを詠んだ歌ではなく、少女との淡いかなわぬ恋を詠んだ歌 のようです。

語釈は日本古典文学全集(小学館)万葉集巻七 より。 他の注釈を見ても鳴き砂と解釈したものはありません。

秘密の4 の答え
砂時計の体積計算問題:
1年砂時計をつくるにも、地球46億年計の絵を書くにも、寸法が要ります。
計算しやすくするため幾何学的形状を左図のように
RAHB の4つ部分に分けます。

H の部分の体積Vは次式です。

この式は積分の問題で、かなり高度の三角法が必要ですが、証明してみませんか。 これも大学入試には無理だそうです。
なお別解として図解だけでも作図できる。詳細は、
砂時計の設計計算式

秘密の5 の答え
参照ページ(巻直径の計算)

秘密の6 の答え
島根の砂時計はなぜ厳しい空気圧の自動制御を行わなければならないか?

巨大故に生じる砂時計の難題(ボイル-シャールの法則の厳しさ)

 物理で習う気体法則にボイル-シャールの法則がある。 PV/T=一定
これが砂時計の大きさに応じてどんな影響があるかを考える。 砂時計の体積が 1000倍になったら、すなわちV=1000ml (1日計とV=1000lで、空気の体積変化はいくらか計算せよ。

 砂時計には上下にほぼ同じ体積の空間がある。 小さい砂時計なら何も問題ないが、大きいときには意外なことが起こる。  上下が常に一定ではない。たとえば太 陽光線が差し込んだら直ちに起こることだ。 V=一定で1気圧で20℃から21℃になった場合、水柱で35.28mm の圧力変化が起こる。 すると空気は一方から他方へ移動する。この移動は直径 0.85mmの狭い孔を通るしかない。
計算すると1000mlでは3.41mlだが1000lでは3410mlとなる。

私は始めに考えるまえに手を出して何かをやるといいました。 しかし それが如何に恐ろしいことかを学んだのは、このことでした。 はじめて完成した1日計を東京の科学技術館に展示したときのことです。 なぜか砂の流れが止まるのです。 なんと原因はこども達がまわりに来ると必ず下のガラスに触ろうとします。 すると手の暖かさで 下の容器の温度が暖まり、すぐ空気が暖まってボイル-シャールの法則を実行したのでした。 1000mlの1日計で起こるなら、その1000倍の場合何が起こるか、それを学んだのでした。 科学を学ぶというのはこういうことだったのです。