リンク:
最近の研究( 京都市青少年科学センター 課題研究奨励賞)
題目: 鳴き砂について、なぜ鳴かなくなったか 京都市西ノ京中学校 2年 勝山由香
1. 研究の動機
私は鳴き砂をテーマにして,自由研究で5年がたちました。今までは鳴く浜を中心に観察・実験してきましたが,今年は5年間の研究結果から,いろいろな条件が合えば鳴くのではないかと思われる場所を捜してみようと思いました。
2. 研究の内容
1)各条件に合う浜を捜す。
2)1)で採集した砂が鳴くか
3)1)で採集した砂粒をテレビ顕微鏡(ズーミック)で観察。ビデオプリンターでプリントする。
4)1)で採集した砂が鳴かなかった場合,洗浄,沸騰処理し,自然乾燥後,テレビ顕微鏡で観察。(ズーミック)でプリントする。
準備物:計量器,乳鉢,ガラスコップ,テレビ顕微鏡(ズーミック),ビデオプリンター
色紙の黒(顕微鏡でよく見えるため),ペットボトル(2l),和紙,鍋
3. 予想
各条件が合えば本当に鳴くだろうか。もし鳴かない場合は,洗浄,沸騰すれば鳴くと思う。
4. 観察と実験の方法
*京都府琴引浜を基準の鳴き砂の浜とする。
1)各条件に合う浜を捜す。
鳴くか,ゴミの有無,石英の有無,砂浜の色,砂粒の大きさ,海水浴,観光客の人数,河川の有無
上の条件にほぼ会う浜
切浜海岸(兵庫県竹野町),浜坂県民ビーチ(兵庫県浜坂町)岩戸海岸(鳥取県福部村),鳥取砂丘
砂浜を歩き数箇所で手や足で砂をこすってみる。
2)1)で採取してきた砂が鳴くか:乳鉢やガラスコップに100の砂を入れ,乾電池(-)と乳棒で押す。
3)1)で採取した砂粒を10g計り,顕微鏡で観察。砂粒の中に微小貝や高温石英が多く見つかりビデオプリンターでプリントする。
4)1)で採取した砂粒を鳴かすために各砂をペットボトル(2l)の中に入れ,水を1.5lその中に注ぎ洗浄する。約5分よく振り,汚水を捨てる。これを2回繰り返し,砂を和紙に広げ自然乾燥させる。(和紙は油を含んでいないので)
洗浄して鳴かない砂を,こんどは鍋にいれて水を400ml注ぎ,約10分間沸騰させ,汚水を捨て和紙に広げて自然乾燥させる。
5. 観察と実験結果
1)の観察結果
各地の比較表(1999年8月17-18日採集)
場所 | 海岸の広さ | 観光客 | 砂の色 | 砂粒の大きさ | 石英の有無 | 鳴くか | 河川 |
琴引浜 | 東西2km南北25-50m | 海水浴多い | 白 | 基準 | 有り(多い) | 良く鳴く | 有 |
切浜海岸 |
東西1km 南北約15m |
海水浴 少ない |
白 | 同じ | 有り | 鳴かない | 有 |
浜坂県民ビーチ | 東西1km南北25m |
海水浴 少ない |
白 | 大きい小石もある | 有り | 鳴かない | 有 |
岩戸海岸 |
東西1.5km 南北30m |
海水浴 少ない |
白 | 細かい |
有り 少し多い
|
鳴かない | 有 |
鳥取砂丘 |
東西16km 南北2.4km |
観光客 多い |
薄茶 | 細かい | 有り | 鳴かない | 有 |
2)の実験結果
場所 | 乳鉢と棒 | ガラスコップと棒 | 乳鉢と乾電池 | ガラスコップと電池 |
琴引浜 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
切浜海岸 | × | × | × | ▲? |
浜坂県民ビーチ | × | × | × | × |
岩戸海岸 | ▲? | × | × | ▲ |
鳥取砂丘 | × | × | × | × |
◎よく鳴く▲鳴いているような気がする?×鳴かない
1)2)実験結果から
いろいろな条件が合っているので,ここなら鳴くと思って砂浜を歩いて見て手や足で砂をこすってみたりしたが,やはり鳴きませんでした。
切浜海岸や岩戸海岸はガラスコップと乾電池(-)で押してみるとなんとなく鳴いているような気がしました。両海岸は洗浄や沸騰処理すると鳴くと思います。
(それぞれの試料約10グラム添付)
3) テレビ顕微鏡の観察結果
1. 切浜海岸
砂粒の表面もそんなに汚れていない。石英も全体に有り,高温石英も見つけられる。またこの浜には微小貝が多くある。
2. 浜坂県民ビーチ
小石や石英いがいの他の鉱物も多く見られる。
3. 岩戸海岸
とてもたくさんの石英が含まれ,高温石英も多く見つかった。
4. 鳥取砂丘
砂粒の表面全体がとても汚れている。
微小貝(約1ミリ-3ミリ)テレビ顕微鏡(ズーミック)100倍
高温石英(俗に幸運石英)
鳴き砂の浜で発見できる高温石英
三方晶系の低温型石英(α-石英)と六方晶系の高温型石英(β-石英)があり,常圧下で573℃が転移温度。硬度7,比重2.65
鳴き砂の砂粒を顕微鏡で調べると写真のように,見事な結晶の原形を留めている粒子を発見できる。鳴き砂の浜辺にあるのは必ず高温石英である。
水晶は地球創生の時,マグマの中で真っ先に結晶化したもので,無重力状態で自由に結晶化したことを示している。その後冷却にともなって結晶系はαに転移するが,結晶の外形はそのまま残る。地殻変動による強力な力や,岩石の風化,河川の流れ,浜辺での波浪の力で破壊されているなかで,運良く殆ど怪我していないものもある。このように無傷の高温石英はまさに幸運石英と呼ばれる。
4)各砂を洗浄,沸騰処理した実験結果
洗浄処理 | 沸騰処理 | |
切浜海岸 | ▲ | ○ |
浜坂県民ビーチ | × | ○ |
岩戸海岸 | ○ | ◎ |
鳥取砂丘 | × | × |
◎良く鳴く ○鳴く ▲気がする ×鳴かない
洗浄処理後は鳥取岩戸海岸が鳴いた。
沸騰処理後は鳥取砂丘以外は鳴くようになった。
鳥取砂丘は観光客がとても多くて汚れがひどいため,手動では汚れは落ちない。
処理前切浜海岸処理後切浜海岸
処理前浜坂県民ビーチ処理後浜坂県民ビーチ
処理前岩戸海岸処理後岩戸海岸
処理前鳥取砂丘処理後鳥取砂丘
この実験結果から
プリント写真を見ると洗浄沸騰処理前と処理後では砂粒全体がはっきりときれいに見える。特に鳥取砂丘の砂粒の表面が汚れていて鳴かないことがわかる。
6. まとめ
各海岸の砂浜には石英が含まれていることがわかる。しかしどんなに石英が含まれていても砂は鳴かない。
見た目に美しい砂浜でも実はとても汚れている。顕微鏡で見てみると,砂粒の表面に油がたくさんついていた。
洗浄,沸騰処理することで,砂粒の表面についている油はかなり落ち,汚れの落ちた砂は鳴きます。
このことから言えることは,各海岸の砂浜は昔は鳴き砂であっただろうと思われる。
また,砂粒の中に高温石英がたくさん含まれている岩戸海岸や切浜海岸は冬-春にかけてだったら,日本海の荒波に洗われて,鳴き砂に戻るだろう。
昨年は島根県の琴ケ浜を観察・実験し,砂浜が汚染されていることがわかった。日本は海に囲まれた島国なので,河川や海を汚さないようにしなければならないと思った。
追記:
日本で鳴き砂の権威者,同志社大学名誉教授 三輪茂雄先生にお話をきいた。
鳴き砂とは:石英を主成分とする1mm-100μmの砂粒から構成される砂で,浜辺でこれを踏むと小鳥のさえずりのような音がする。
鳴き砂はどうして鳴くか:鳴き砂は摩擦係数が非常に高く,満員電車のように粒子が堅固に充填している。ここに棒を突き入れようとしても普通の砂のようにズブズブとは入らない。最初鳴き砂は強い静止摩擦力によって,棒の進入を阻む。そして支えきれない力が加わった時,充填した砂は剪断崩壊を起して,滑り帯をつくる。広範囲の砂がいっせいに滑ることで生ずる断層のようなものだ。
ひとたび崩壊が起こると,静止摩擦係数からはるかに小さい運動摩擦係数に変わるため,抵抗が急激に弱まり,棒はグッと入り込み,動いたとたんに,力は解放されるから,再び静止摩擦に戻る。この周期的な繰り返しによって,砂層が振動することから,独特の音が生まれる。決して粒子と粒子が擦れ合う音や,粒子の間の空気が噴出する音ではない。
なぜ鳴かなくなったのか:
鳴き砂の表面にほこりや,脂が付着すると,摩擦係数が低下し,簡単に粒子と粒子が滑ってしまい,その結果今までのようにダイナミックな運動が起こらなくなる。
では,その原因は農業排水や無処理の生活排水が海に流れこみ,砂浜を汚染する。いわば環境汚染そのものといえる。
鳴かなくなった砂を鳴かすには:
汚染が低ければ洗浄をすることで音を取り戻せる。ミリング機械による洗浄で,10リットルのポリエチレン容器に砂と水を入れ,毎分60回転させ,それを100時間ないし1000時間続ける。これは砂が波にもまれて洗われる自然の工程を再現したものだ。
このときアモルファスシリカ(シリコン)が生成される。これは水溶性なので石英の表面を化学的に洗浄し,石英粒子の表面が光沢を帯び,つるつるになる。ここまでくれば鳴き砂に戻る。
7. 感想
今まで鳴き砂を中心に観察・実験してきたが,今年は私なりに5年間の研究結果から,ここは鳴くだろうと思って砂浜に降り,観察・実験をしてみた。初め現地では鳴かなかった。しかし三輪先生のお話で,洗浄,沸騰処理することで,汚染度の低いところは鳴くころがわかった。
三輪先生によれば日本ではどこの砂浜でも鳴き砂だったはずだが,今は20箇所程度だという。
今回,洗浄・沸騰処理して鳴いた岩戸海岸や切浜海岸はどの資料にものっていなかった。
昔はあちらこちらで,鳴いていた鳴き砂がなぜ鳴かなくなったかを,もう一度考えなくてはならないと思う。