光学レンズを磨くとき起っている現象から摩擦を考える
もう一つの摩擦高温発生の証拠をレンズの光学的研摩に見ることができる。摩擦の際、固体は局部的、瞬間的に融解し、直ちに凝固して、真実接触部では凝着が起こる。まさかと思うがその通りである。「固体の摩擦は表面の凹凸が原因で起こるのではなくて、凸部の先端で凝着が起こり、これをひきちぎるに要する力が摩擦力であるという「凝着摩擦説」はこうして築かれ、現代の摩擦、潤滑、研摩理論の基礎となっている。 研摩では一ミクロン程度の傷も許されないカメラのレンズの光学的研摩面は精密なものの代表である。球面の真球度が1ミクロン以下という高精度のレンズ加工は、まずカツプ(円筒)形のダイヤモンド砥石(ブロンズボンド)によるレンズ球面創成加工(CG加工)で曲面をつくることに始まる。次は「砂かけ(スムージング)」と称し、鋳鉄製の皿(ラップ皿)と遊離砥粒(粉体のまま)で水をかけながら磨く。砥粒は炭化珪素砥粒を主とし、粗い砥粒からしだいに細かくしていって、最後は2100番の砥粒をつかう。しかし最近はダイヤモンド焼結体が出現し、バラバラの砥粒はつかわなくなった。こうして曲率半径が十分、設計値に近づいた粗面を、最後に光学的研摩面に仕上げる。従来は鋳鉄かアルミの磨き台皿にピッチを2-5ミリぐらいはりつけたものを磨き皿とし、水と圧力をかけながら酸化セリウム粉末で磨いた。最近はピッチの代わりに発泡ポリウレタン・シートが用いられ圧力も高くなっている。このポリシングのさい、砥粒とレンズ面の接触点では局部的な高温が発生し、レンズの表面で局部的な軟化、融解、表面流動が起こり、こういう過程が積み重なった結果として、レンズの鏡面仕上げが完成する。ここまでいわれるとなるほどと納得するほかない。