現代の粉(ファインパウダーの時代)

 

            

テーベの墳墓に見る工程図(紀元前1900-1500)

エジプトの絵も、こんな工程図として眺めるのは楽しい。文化史の舞台裏は、古代エジプトも今も変わらないのが粉体プロセスだ。

 粉をつくって、粒をそろえて、捏ねて、固めて、焼いて…。同じようなパターンの仕事である。作るものの種.類にも、時代にも関わりないから、陶磁器作りもその他何でも同じことである。

 では、現代の舞台裏では、何が行われているのだろうか。よくよく見れば、さすが現代の粉は粉でも、並の粉ではなく、ファインパウダーである。その舞台装置も、人類史を通じて磨きぬかれた科学技術の粋が集約されている。

 ファインという語は、「細かい」と同時に「洗練された」、「精細な」、「純度が高い」という意味ももっている。

Good morning how are you?

I'm just fine thank you and you?

という朝のあいさつは、小麦を挽いて細かくて混じりけのない、すてきな粉がファインだった古代西洋人の生活に根ざしている。

 現代を演出している〃粉"は、粉砕して造る粉のほかに、科学技術を駆使して高純度の粉を合成したり、極めて細かい千分の一ミリミクロン一以下の粒子ひとつひとつに複雑な加工を施したりする。専門用語で微細構造の制御とか、ミクロ加工技術というのがそれである。光学顕微鏡ではせいぜい百分の一ミリが限度で、それ以下の世界はぼんやりとしかわからなかった。ところが電子顕微鏡が発達して、千分の一ミリ以下のミクロの世界を鮮明にとらえることを可能にし、微粒子の微細構造を明らかにした。1960年以降の超高圧電子顕微鏡や高分解能電子顕微鏡の発達は、アポロ計画、月面試料研究などのインパクトもあって、応用技術も著しい進歩を見せ、1970年代には結晶構造を直接見ることさえ可能にした。粒子表面の構造を詳細に観察する走査形電子顕微鏡は、かつての光学顕微鏡なみに普及し、これが微細構造を造り出す技術の強力な道具になった。

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