昭和初期に物理学者寺田寅彦先生はがはじめて粉体という語を使った

 日本いや世界で初めて粉体(粉體)という語を使った記録である。この文献を発見したのは理化学研究所の沢畠恭先生であった。また東京工業大学教授だった大山義年先生は「俺、先生からハガキでそのことを知らせてもらったものだ。ここにあるよ」と見せてもらったことがあった。ペン書きのもので、それを私はお借りして『粉体と工業』誌に写真をのせたものである。大山先生が公害研究所長時代であったから、所長室を訪ねたものだ。

「要するに此等の問題の基礎には”粉”といふ特殊な物の特性に関する知識が重大な与件として要求されるにも拘わらず,其れが殆ど全く欠乏して居る。さうして唯現象の片側に過ぎない流體だけの運動をいくら論じて見ても完全な解釈がつきさうにも思われない。粉状物質の堆積は,瓦斯でも,液でも,弾性體でもない別種のものであって,此れに対して”粉體(体)力学”があるべき筈である。近頃,土壌の力学に関連して大分此方面が理論的にも実験的にも発達して来たやうではあるが,それは併し殆ど皆静力学的のものであって,粉體の運動に関する研究は皆無といっても過言でない。此の新しい力学の領域に進入する一つの端緒としても上記の如き諸現象の研究は独自な重要意義をもつであろう。」

  寺田寅彦”自然界の縞模様” 『科学』,3,77-81(1933)より

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