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石臼と日本刀とギロチン 

 石臼の目は粉砕物の送り機構であるとともに、粉砕を継続せずに休み休み行う工夫でもある。この話を日本刀の研師に話したところ、「刀にも同じ目がある。細かいだけで全く同じだ。これは秘密の技で人に見せずに研ぐ作業のさいごにサッとやるんだ」という。それを確かめるために念のため刃の顕微鏡写真を撮ってみた。

 刃裏に斜めに粗磨りの跡がある。それなら試し切りというわけで、ギロチンを作ってもらった。人の首ではなく煙草の葉を切ったのである。いまは生産中止になっているが、刻み煙草の裁刻である。いまのタバコ産業、当時の専売公社池田工場で実験した。ふつうの刃物では裁刻中に裁刻した葉が熱をもつが、粗磨りした鋭い刃では殆ど熱が発生しなかった。しかも切った葉が切った瞬間に遠くへ飛んだ。これなら首も飛ぶ筈だ。双方の切り方で裁刻した煙草の葉の喫味試験が行なわれたが、専門の試験官が一様に鋭い刃の方を良と判定した。しかしこのような研ぎ方は実作業では無理である。

工場の裁刻機はその昔、江戸時代 にたばこ庖丁(そば庖丁に似ている)で切った仕事を機械化したものだった。 ギロチンのような機械である。刃はすぐに切れなくなるので40秒に一回研磨さ れていた。ひと握り分ぐらい葉たばこを裁断すると、刃は熱くなり、刻んだ葉も40℃ぐらいに昇温する。そこで刻んだ葉をほぐして放熱させる。この作業を見ながら、なるほど、これが一般にいう切断、粉砕時の熱なんだと思った。切断速度は秒速1m程度でも熱が出 た。これ以上の切断速度にすると、刃にヤニがつく程度がはげしくなり,たばこ の味が明らかに悪くなった。

 熱電対(ねつでんつい)を葉にはさんでおいて、切断の瞬間の温度上昇を測定してみたところ、120℃くらいが観測された。熱電 対は0.1mmのアルメル・クロメル線を使い、できるだけ熱検出端の熱容量を小 さくしたが、約0.5mmぐらいの大きさなので、測定温度は、この小さな金属球 の平均温度である。したがって、切断の瞬間の葉の温度はこれよりはるかに高 い。おそらく局部的には数百度あるいはそれ以上になっていると考えられる。刃 先にタールが付着するのはこのことを示している。  この事実は、一般に植物質の粉砕の際に起こっている現象である。石臼でゆ っくり碾いたそば粉は香りも味もよいし、原料そばがよければ、全くつなぎなし でもそばが打てることはよく知られていることだ。

刀鍛冶の協力で、日本刀なみに鋭いギロチンも作ってもらった。 さて実験にとりかかって、驚いた。日本刀並みのギロチンで裁刻すると、刻んだたばこの葉が遠くへ飛ぶのである。ふつうの研ぎ方のものは、バサッと刃の下 に落ちる。なーるほど、これが日本刀の切れ味かと、今更ながらに感心した。喫 味試験の結果も、切れ味のいい方は、まろやかな味があると出た。切れ味が悪い 刃には、すぐにヤニが刃に付着することも分かった。

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