詳細旅行記
中国鳴き砂調査団報告 1991年10月28日(仁摩町役場へ提出文書)

                  団長 同志社大学工学部教授  三輪茂雄

                     仁摩町役場経済課長   岩瀬昭俊

                  通訳 徳寿工作所研究員    王  勇

 1991年10月9日より24日までの16日間、中国各地の著名な鳴き砂の産地を訪問した。中国科学院沙漠研究所の協力を得て、実り多い調査を実施できたので以下要点をまとめて報告する。今回の調査で、いままで日本では知られていなかった中国の鳴き砂の実態が明らかになったのは、まさに画期的なことと思う。しかし中国でも鳴き砂が最近になって、新聞記事などで沙漠の鳴沙がひろく知られるようになり、名所を訪れる観光客が増えている。そのため鳴きが悪化しているところもあった。

1.調査対象とした鳴き砂所在地:銀肯砂湾(包頭)、沙坡頭(中衛)、鳴沙山(敦煌)、深滬湾 (廈門)

2.中国の鳴き砂の存在状況:いままでに日本から鳴き砂について調査に来た例はまったくないとのこと。また中国で鳴き砂に関する関心はやっと数年まえからで、最近中国人が現地に観光目的で来るようになったという。これは人民日報などマスコミが報ずるようになってからのことである。

3.鳴き砂の中国における歴史:鳴沙山をはじめその他の地域でも、古くから鳴沙として言い伝えや文書がある。鳴沙山、や鳴沙塔などがあることもわかった。とくに敦煌の大雷音寺や鳴沙山のように信仰にむすびつくものがあるのは注目すべきことである。現在までにシルクロードに関係して、NHKなどが鳴沙山を訪ねているが、鳴砂に関しては報道されたことがないし、そのたの書物でも鳴沙については、ほとんど触れられていないのは不思議なことである。著名は中国人の筆者による報告でも鳴沙山は既に「絶えて音なし」と書かれている状況である。これは現地を充分調査せずに報告したものと思われる。また海岸の鳴き砂も、その存在が知られていない。

4.鳴き砂の発音状況:沙漠の鳴き砂(英語名Booming sand)は日本の海岸の海成砂とはちがった成因によるものであり、またその堆積状況も相違する。そのため発音方法も違うことがわかった。中国独特の方法で音を出していた。砂の堆積斜面を座って辷り落ちるときに、大量の砂が運動状態になって、そのときに砂層中に生成する辷り帯びによる砂層の振動が原因となって、ブーンという高い音を生ずる。それは離れた位置で聞くと飛行機が飛ぶときの音に似ている。その振動を体験できた。

  海岸の砂も廈門で調査した。少し湿っていたので現地では発音は確認できなかったが、晴れた日にはよく発音すると思われる。

 それぞれの地点で砂のサンプルを約1kgほど採取して持ち帰った。これは砂粒子の顕微鏡写真とともに仁摩サンドミュージアムで展示する。

5. 保護状況:鳴沙山では、一部だけ公開して自由に観光を許し、大切な場所は完全に立ち入り禁止区域に指定して、国の許可なしでは立ち入りできない。これは国の事情もあるが、わが国でも学ぶべき点があると思われる。

6. 鳴き砂の研究状況:専門に研究している人は中国科学院蘭州沙漠研究所 戴 年(蘭州)、中国科学院蘭州沙漠研究所 屈 建軍、廈門大学海洋学部 蔡 愛智の諸氏。しかし鳴き砂が鳴く原理については、基礎研究はまったくなく、当方の内容の概要を説明したところ、是非詳細を知りたいとのこと。とりあえず最近制作した説明書(「鳴き砂はなぜ鳴くの」を送り、著書「鳴き砂幻想」ほか当方にある外国および国内文献を送ることにした。

7. 共同研究について:どこでも日中共同研究を提案された。夏は砂の状況がよいので、1月位の日程で来いとのこと。その目標として鳴沙山が一番研究しやすい。方法としては地震計などをこちらから持参して、測定することが考えられる。ただし、中国への輸出については戦略物資に含まれるハイテク器材の考慮が必要であろう。

8.中国からの研究者の招待について:日本を訪問したいという希望はいずこでもあった。今後の人的交流について検討する必要がある。先方で接触したそれぞれの研究者はいずれも鳴き砂に深い関心をもっておられる。

 この調査を実施するにあたって、こころよく調査を許可され、さらに旅行について充分な配慮をいただいて、安全で快適な旅ができ、しかも充分な調査の目的を達成できたのは、ひとえに中国科学院のご好意によるものであることを付記する。また本調査の手配や経費につき島根県仁摩町のご配慮に感謝する。