なぜ縁の下で硝石ができるか

フロジストン説はうんち起源だ。これは化学の教科書に出ていない秘密だった。

 ところで、十八世紀のナポレオン時代には、西欧で、馬小屋、豚小屋、鳩小屋などが硝石の集積培養採集場として利用され、硝石床の研究が進んだが、硝石の生成機構はわかっていなかった。近代化学の創始者のひとりとして知られているラヴオアジエは1775年に、フランス政府の若き官吏として、硝石採集管理官を務めていた。この仕事を通じて、後にフロジストン説を覆し・有名なラヴォアジュの燃焼理論を打ち立てるにいたるのだが(服部勉著『大地の微生物』岩波新書(1972)、そのルーツかうんちくさい職場にあったなどということは、なぜか高校の化学のテキストから省かれている。残念なことだ。それから100年後の1877年、パスツールが微生物研究に打ちこんでいた頃、パリの下水浄化研究をしていた科学者たちが、下水の浄化にともなって硝石が生ずることを見出し、微生物による硝化作用であることをつきとめた。これと火薬とのつながりは意外であり、そして楽しい。この微生物が、土壌の中に住む硝化菌であることを明確に証明してみせたのはウィノグラドスキー(1890年)であった(ファーブ著、石 弘之訳『土は生きている』(蒼樹書房、1976)。硝化菌は三種のバクテリアが共存共栄して活動する無機栄養菌であり、いうなれば大地の無機化学工場である。チリ硝石も、もとをたずねれば、大昔の動物の糞から硝酸菌がつくったものである。

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