06臼類文化学会シンポジウムIN上石津 講演記録(私はノートをとるのが苦手で、学生時代には友人頼りだった。でもどこにも頼れる優等生がいるもんだ)

基調講演  三輪茂雄
 ここは堅苦しいシンポジウムではないので、どんなことでも話してください。質問もどんどん結構です。皆さんこだわりを持って研究している方たちの集まりですが、変な人はいません。自由人、優しさ、思いやりの集団だから10年も続いているのだと思っています。酸素ボンベにつながれているので、言いたいことは資料として配布しましたので読んでください。今日は私の父系の従姉妹まで動員しての会です。叔父の大橋政治がバスの運転手をしながら、三重県中を回って各地で得た知識を元にして、定年後国道沿いの店を開店していました。私はそこに一番泊りで弟子入りしたのですが、団子を串に刺す段になって、5つの団子の配列にコツがあり、「おまえの団子は商売にならんからよせよせ」と言われたものでした。団子は決して新球ではなく、いびつなものです。それを配列するには「一つの美学があるんだよ」と言われたものでした。大学には自分のノートを読むだけの先生がいたものですが、ノートなら印刷で済むんだから別資料を読んで下さい。
 
吉村秀峰(富山県利賀村)利賀村シンポで出会った方
 現在和菓子の原料の殆どが外国産である。私は長年にわたって国産の原料と製粉と砂糖、塩にこだわってきた。数年前石川県で行われた「石臼シンポジウム」の新聞記事でこの会を知り、以来毎年参加している。そして、今ようやく自分が求めている粉に近づいてきたと思っている。今年は、この日本臼類文化研究会から石臼挽きの粉を送っていただき、田舎まんじゅう」を作ってきました。ようやく自分が納得できる製品に近づいてきたと思っています。和菓子に使う砂糖には甜菜(主に北海道産)と砂糖きび(沖縄)、砂糖きび大根(輸入品)があります。入れる砂糖も氷砂糖(クリスタル・ロック)も、製品によって使い分けている。氷砂糖はあくが少ない。塩は桧山先生に教えていただいた、沖縄(あぐに塩)が美味しい。
 小麦粉は農林10号、小豆は十勝産を使っているが、気温、湿度で味が変化する。9℃で保管している。また、価格の変動が激しいのも悩みの種。講演中に試作の田舎まんじゅうを頂く。薄皮の粉は口中にひっつくことも無く自然に融ける。団子は柔らかな甘みで、小豆の風味を生かした上品なまんじゅうだった。2,3個は軽く食べられそうだった。吉村さんの執念の一品だろう。12日のお茶席ではカステラを頂いた。これも口中に留まらず、さらりとした食感、適度な優しい甘味だった。
上野 太(福井県白峰で堅豆腐の伝統を守り続けている方
 豆腐が中国から日本に伝来されたのは、奈良時代といわれている。伝来のルートにはさまざまな説があるが、奈良、沖縄、土佐の順に伝わったというのが有力である。しかも堅豆腐だった。沖縄は島豆腐として売られている。豆腐製法には、生しぼりと煮しぼりがある。加賀の中でも、白峰地区は煮しぽり、桑島地区は生しぽりの堅豆腐である。その後今様の木綿豆腐、絹豆腐、瀧豆腐になった。他ににがり豆腐(1丁300-350円)がある。大豆は北海道産を使用している。生しぽりは、大豆を水に浸し磨砕、加水、ろ過し、豆乳とおからに分ける。豆乳を加熱し凝固させる(瀧豆腐)脱水、成型し豆腐が完成する。煮しぼりは、大豆を水に浸し磨砕(加水)、加熱、ろ過し、豆乳とおからに分ける。豆乳を凝固、瀧豆腐、脱水、成型し豆腐になる。現代は煮しぼり法が多い。堅豆腐が作られているところは、加賀豆腐、白山豆腐、土佐の一升豆腐、沖縄に残っています。安価で売られている充填豆腐は、呉汁ににがりを入れ、ボイルしたものだから、水分まで凝固された豆腐である。
大橋 透(三重県東員町)
 三輪の父方の従兄弟に当る人物。’週間朝日・・・・)御手洗団子は親父が作っていた。美味しさに拘っていたので大変手間がかかっていた。原料は米粉、篩の目開きは80番くらいだったか。粉を練って、成型、蒸す、水洗い、串に刺してから焼く。市販のものより甘さをひかえていたので評判が良かった。今、娘が団子屋をやっているが、串に3個刺して団子三兄弟のネーミングで売っている。地方によって団子の数が4個と5個がある。12日に団子の実演があった。蒸した粉を棒状に延ばし、10列くらいのレーンを転がし、一度に20個くらい作れる道具は優れものだった。やはり「美味しい」といってくれる人を思い、手間隙と愛情をかけたものは美味しい。京都下賀茂にある御手洗団子は伝統を失っているが、この本物は上顎にくっつかない。
檜山先生(福岡市)
 有名なお料理研究家である。臼類文化学会で作った米粉、篩40番、80番、市販の粉で作ったお菓子の食べ比べをしながら、お話を伺う。同じお米でも、粒子の違いによって、驚くほど食感に変化があった。残念ながら御手洗団子実演の準備、コーヒーの片付けなどに追われ、先生のお話を落着いて聞くことが出来なかった。最後の方で、お料理は赤、黄、緑など、お子様ランチのように拘らず、ゆったりとした心、楽しみながら作る。忙しかったら市販のものにちょっと手を加えても良し。忙しいという字は心が亡ぶと書く。心が亡びていては、決して美味しい料理はつくれない。また近所こ美味しい料理、美味しいお菓子を売っているお店があったら、皆でそのお店を応援してあげる。最近は横行している添加物いっぱいの食品、塩分の多いスナック菓子を食べ続けていることも、子供たちの不安定な精神の原因かもしれない。イライラ、イジメ、その先には小中学生の自殺。主婦はそういうことも考えて、豊な心で料理を作ってほしい。また、長寿国といわれながら、健康な老人が少なくなった。町で見かける立派な建物は、パチンコ店と老人ホーム、介護施設ばかりである。これは、自分が行く道の中に、介護施設を想定しているように思えてならない。
田部井先生(焼物師)宅に移動
田部井先生のアトリエ、作品拝見
 前宇治市茶業研究所におられた大西先生のお話
 吉村さんのカステラ、抹茶を頂きながら先生のお話を伺う。茶道の歴史、作法、器の拝見の仕方にいたるまで楽しくお聞きすることができた。お抹茶のお話は奥が深いので、ここで下手なことを書いたらお叱りを受けること間違いなしなので書きません。田部井先生のお茶碗は、茶道を始めたばかりの孫への土産には手が届かない。ところが、大西先生がお稽古用のセットを1800円でお分けくださった。最高のお土産が出来ました。ラッキー! 夜、孫娘の裕美がさっそく家族にお茶をご馳走してくれた。茶道の先生に「なかなか筋がいい」と褒められていますので、続けて勉強してほしいと思っている。家族揃って至福のひとときをいただくことが出来た。
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 石臼挽き手打ち蕎麦(岐阜市古川さん)、石臼挽き豆腐(堅豆腐、朧豆腐、厚揚げ)、大橋 透さんの御手洗団子、吉村秀峰さんの小豆ぜんざい(粉は石臼挽き)試食。美味しいものは、すべての人を幸せにしてくれる。あわただしい別れの時間だったが、皆、最高の笑顔で再会を約束していた。そこには、もう来年の計画が始まっているとうれしそうな便りでした。『石臼永遠なるもの:副題 粉と臼』来年は主催者の日本臼類文化学会のスタッフのご苦労に感謝します。ありがとうごさいました。
11月14日 井上良子 記

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