バックミラーとしての民俗学
道具類などを論ずる民具学は民俗学から派生したが、本来切り離せない関連があり、研究者も重複していることが多い。民俗関連学会へ私が参加したのも民具としての石臼調査からはじまった。私が民俗学者宮本常一氏を訪ねて石臼を研究したいといったとき「なぜ君は工学なのに民俗学に興味があるのか」と問われた。私は「民俗学はバックミラーだ。現代がまちがった方向に進んでいたら、警告を発する使命がある。」というと彼は大いに気に入って私に後に日本民具学会創立幹事に推薦した。
私はもともと会社のエンジニアで堅い鋼や石を削る工具の材料になる研磨材製造が仕事だった。現在の豆腐屋で一般 化している研磨材を固めた高速回転グラインダー(臼)の材料もその一つである。ところが最近は柔らかいものの見本のような豆腐用の石臼復活に努力している。不思議な縁だと思う。これは民俗学か民具学か、多分どちらでもないが、私はこれは民俗学の現代性を示すと考えている。民俗学は必ずしも回顧趣味ではないのだ。
今年(2000年)7月1-2日(土日)に岐阜県大垣市の情報工房5 Fスインクホールで、石臼豆腐製造を目指す石臼シンポジウムを開催予定である。日本臼類学会主催、(大垣市教育委員会、養老郡上石津町後援)の石臼豆腐をテーマとしたシンポジウムである。日本臼類学会は所在地がインターネットhttp://www.bigai.ne.jp/~miwa/の上にあることでわが国唯一の事務局不要、会費無料の学会だ。最近大豆と豆腐が遺伝子組み換え表示をめぐって話題になっているが、肝心の豆腐づくりの基本となる豆乳製造用機械はメーカーまかせ。高速回転のグラインダーが主流になっている。 豆腐用石臼は単なるグラインダー(粉砕機)ではない。伝統的な道具は必ず複合機能をもっている。すり鉢も石臼の代用の道具だが、混ぜる機能と砕く機能を合わせもっている。それを生産性第一で高速回転のグラインダーで代用した現代技術は明らかに方向を誤っている。現代の豆腐屋のプロセスはグラインダーに合わせて組み立てられているから、現代豆腐製造方式の改悪はプロセスにも及んでいる。石臼だけ導入しても解決しない。。安ければまずくても文句を言わない消費者にも問題がある。他方こだわり豆腐と称して1丁400円強でにせものをベラボウに高く売るのは悪徳も度を越えている。それが有名博物館だ。
シンポジウムでは石臼で作った豆乳からはじまり、豆腐・おから・あぶらげ・ゆばの五点セットを実際につくって食べていただく。人力で石臼を回すなど現代人には無理だから90ワットの小型モーターで回す機械を開発した。機械を売る気はないからノウハウはすべて公開。家庭で主婦が手づくりの一丁豆腐を作る機械だ。ミキサーしか知らない主婦には朗報の筈。7月は新豆が市場に出る前で豆腐がまずい時期だが、あえてその季節を選んだ。水の都、大垣の地下水で作る豆腐だ。苦汁はきれいな海の象徴鳴き砂の京都府網野町産。
その斬新性に賛同して現代技術史評論家として著名な星野芳郎氏や韓国の食物史の権威、ソウル中央大学家政大学名誉教授 理学博士 尹瑞石氏、各地の豆腐研究で知られる大阪学院短期大学助教授 竹井恵美子氏らの参加が予定されている。私の研究のスタート点となった食物史の故篠田 統氏、故人宮本常一氏を招待できないのが残念だ。(参加申し込みはインターネットのメールで)