新刊書紹介 三輪茂雄著『ものと人間の文化史-粉』2005.6発行

粉とは
 小麦の粒を〃粉"に挽き、麩(不純物)を除去して”白い粉"をつくり、この粉(素材)を捏ねて、形を整えて焼けぱパンである。順を追って述べるように、陶磁器も、絵具も、金銀財宝も、茶の湯も、その他すべての物が原点までたどれば、みな”粉"づくりからはじまる。本書は、素材としての"粉"に注目して人類の文化史を古代から現代まで見直す試みである。このような視点に立つと、文化の台所、あるいは舞台裏に入りこまねばならない。  これはいつの時代にも隠された部分、あるいは人に見みられたくない場所だったから、記録にはほとんど残されていない。華々しい鉄砲の歴史は書き留められても、火薬の"粉"づくりについては記されない。金銀財宝の記述はあっても、金銀鉱山の歴史は闘に葬られている。
 難しいことであるが、考古学的遺物と、あいまいな記録や文書とを考え合わせていって文化の裏方さんの歴史を掘り起こしてみる。現代のハイテクもまた、現代科学の粋をつくして、おそろしく手のこんだ"粉"(パウダー)を造るところからはじまるが、何のことはない、それを捏ねて、固めて(成型)、焼いて(焼結)と、誰にでも理解できる工程が展開している。
 物質の種類を超えて製造工程の共通性に注目する"粉"の概念は、ものと人間の文化史を探る有力なキーであり、同時に現代技術を理解するキーでもある。そして、"粉"にはじまり、"粉"に終わる現代を眺めて、人間とは何かについて考えてみるのが本書である。

ーーまえがきより

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