記念講演 講演要旨
  最近の鳴き砂をめぐる動き
                 同志社大学名誉教授 三輪茂雄
0. まえおき

 今回で3回目の門前訪問です。1980年初訪の頃は路線バスでしたので、たいへんでした。高速道路ができていて、昔日の感です。話は短いに限るからと。以下は印刷物参照でといいながら、ところで皆さん昨夜はよく眠れましたか。と問い、私は眠りがわるかったです。それはブルドーザーが鳴き砂の浜を削っているからですと、話を日本最南端の鳴き砂が危ないイリオモテの月が浜問題を紹介といった感じで以下説明。

1 青谷の砂は何美人
私は青谷町での講演で、「ここの鳴き砂は日本一です」と言いましたが、その話がほかの鳴き砂の地に聞こえたようで、「うちは日本一ではないのか」と琴引浜の網野町で叱られました。美人にもいろいろあって、声美人、見かけ美人、写真写り美人、愛想美人、後ろ姿美人,肉体美人などいろいろありますが、青谷の鳴き砂は発音特性を音響特性テストした結果、声美人であることが判明したというのが真相です。発音特性がいいということは、砂と海水がきれいな鳴き砂の浜だということに間違いありません。
鳴き砂の正体は、地球誕生のロマンを秘めた高温石英の結晶。まさに大自然の芸術作品です。世界中の鳴き砂が失われつつある今日、町民のみなさんが力を合わせて守ってほしいと思います。
2 日本最南端の鳴き砂が危ない
一昨年(2001年2月11日に「サーファーのグッシーさんから聞いた話ですが」と井川真理子さん(沖縄県石垣市)からのメールが入った。「沖縄の西表島に月ケ浜という鳴き砂の浜辺がありますよ」と。春になって現地の民宿の方から砂を送って来た。明瞭な発音特性をもつ明らかに優秀な鳴き砂だった。沖縄は星砂で放散虫の化石ばかりだという話が打ち消された。これで日本列島一直線が北は国後島、南はベトナム、タイ、そして更にアフリカのマダガスカルまで直線が伸びたあとに、日本列島一直線上で発見されたことに大きな意義があった。こともあろうにその月ケ浜が失われそうという。
3. 月ケ浜でリゾート計画進行中
テレビで月ケ浜で何か反対運動があると出たのでご存知の方も多いと思うが、「月ケ浜」がリゾート開発で消えるらしい]」とトラストからの情報が来た。
さっそくHPで検索すると、キーワード「月ヶ浜」で、月ケ浜の案内に続いてリゾート開発の詳しい情報が出てきた。それに月ケ浜が鳴き砂という私の紹介のページが続いていた。
http://www.bigai.ne.jp/~miwa/sand/visit/j_hakken.html 鳴き砂一直線発見の歴史'99全国鳴き砂サミットIN湘南
など膨大な詳しい資料が並んでいた。冗談じゃない。即現地反対派代表宛激励状とカンパを発送した。即また現地から感謝のメール到着。また日本ナショナルトラストからは竹富島にある西表島役場へこのサミットへご参加の誘いを出していただいた。さすが IP時代。いまどきリゾートとは時代錯誤も甚だしい。
4. なぜ剣地の鳴き砂の浜が琴ケ浜か
 能登・剣地の鳴き砂の浜は地図には琴ケ浜と表記されているが、お小夜がゴメイタ(泣いた)とするお小夜伝説と符合しない。そしてこの地の役場では琴ケ浜と書き、鳴り砂と称しているのはなぜか。
十八鳴浜の最古の文献蓑山著1984年(明治27年『地学雑誌』にはクグナリとルビが付いている。それ以前にルビがあったかどうかは不明である。だから今でも十八鳴浜だけはクグナリと呼ばれている。その後鳴き砂研究の草分けの新帯国太郎氏は鳴砂と書いていたのを編集部が書入れしているようだ。(三陸新聞複刋第4891号-跛行年不詳1930年代)に気仙沼市立図書館勤務の荒木さんへ送られた東北大学東北研究所第十巻六号に書かれた論文の抜粋が掲載された)。1929年『地球』の金尾金平は歌ひ砂(音楽砂)として海の中道の砂について書いている。
この呼び名とは別に鳴き砂がある。私も初めは鳴り砂と呼んでいたが、ある高名な音響物理学者から、科学者が非科学的な呼び名を無造作に使ってはいけない。とお叱りをうけ、その後鳴き砂に統一してきた。このことは'99全国鳴き砂サミットIN湘南で説明したが、決定的な発言は差し控えた。非科学的不統一のままでは、日本語の名誉に関わるので説明を追加する。日本語は本来非常に正確であ筈だ。
 「鳴る」あるいは「鳴り」は「鐘が鳴る」ように物体が外力によってエネルギーを得て振動することが音の原因である。従って外力の作用が止まっても自力で発音し、余韻を生ずる。そのため自由振動と呼ばれる。一方「鳴く」あるいは「鳴き」は、外力による振動で、外力の作用が止まれば音は止まる。だから余韻を伴わず強制振動と呼ばれている。。
 私は沙漠のブーミングサンドと海浜の鳴き砂は同一のものだと認識するまで、鳴き砂について自信がなかったが、内モンゴル自治区の巴丹吉林沙漠でようやく事実を確認できた。ブーミングサンドは唸るので鳴るように感じるが、砂の表面流動が止まればとまった。日本国内にはブーミングサンドが存在しないので、多くの方々は気軽に鳴り砂という誤った呼び名をお使いになるが、書くなら小文字にするか、小さい声で呼ばれたらと思います。
5. 万葉集を調べた国文学者は
 鳴き砂か鳴り砂かについて、島根の仁摩サンドミュージアム建設のとき、高名な国文学者がしつっこく鳴り砂説をぶった。万葉集にあると。万葉集:読売新聞の窓欄によみ人知らず(報道では額田王の歌とあった)として万葉集にも鳴り砂の記載があると報じたこともある。これについて1999年に駒沢大学院生の伊藤達氏が調査した。原文は「紫之名高浦之愛子地袖耳触不寝将成」で万葉仮名で書かれている。現代文で「紫の名高の浦の砂地神のみ触れて寝ずカりなむ」意味は「名高の浦の砂浜に袖が触れたけで,寝ずじまいになるのだろうか」はなはだ高尚な意味深である。語釈は砂地一組かい砂のある所。マナゴには愛児,いとしい少女の意0音語があり,原文「愛子地」の表記もそれにかけているのだろう。旅先で言葉をかけた可憐な少女をたとえたもの。場所は、名高の浦 和歌山県海南市名高町の海岸。この歌は鳴き砂のことを詠んだ歌ではなさそうだと。  語釈は日本古典文学全集(小学館)による。他の注釈を見ても鳴き砂と解釈したものはない。少女との淡いかなわぬ恋を詠んだ歌だ。もしあくまで主張するならちゃんと万葉仮名を理解してからにして。ちなみに,同書万葉集巻七にある。

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